AS400(IBM i)とは?
AS/400(エーエス400)とは、IBMが1988年に発表したミッドレンジのコンピュータシステムのことです。製品名は時代と共に何度か改称されており、現在はIBM i (アイ・ビー・エム アイ)という名称で販売・提供されています。
位置付けはミッドレンジですが、大企業でも利用されています。以前はオフコン(オフィス・コンピューター)というカテゴリで、日系メーカーも同種の製品をラインナップしてましたが、現在でも継続して提供されているのはIBM i のみとなっています。
IBM以外のメーカーがオフコン事業から撤退する中、IBMは開発投資を続けていて、今はIBM Powerというサーバーで稼働するOSの一つとしてIBM i が提供されています。AS/400登場時はサーバーも専用ハードウェアで、サーバーとOSがセットでシステム全体としてAS/400と呼んでいましたが、IBM i はOSのことを指すのが一般的です。
オフコンという言葉が表すように、AS/400(IBM i)は企業向けのコンピューターシステムです。同種の製品がなくなってしまったのもあり、オフコンという言葉自体は聞かなくなりましたが、IBM i は今も現役で、企業の基幹業務を支えているプラットフォームです。1988年の登場から35年以上経った今も、IBMが機能拡張を続けているので、決して古くて時代遅れのシステムではないということをぜひ知ってください。
その証拠に、IBM i のユーザー企業の多くが、長年、IBM i を使い続けています。もちろん、IBM Powerのサーバーは物理的な老朽化対応が必要なので、物理サーバーを入れ替えながらですが、OSであるIBM i を多くの企業が使い続けています。そして、IBM i ユーザーの企業のシステム担当者の中には、いまだに「エーエス400」や「エーエス」と愛着をもって呼ぶ方が多いのもAS/400(IBM i)の特徴の一つだと言えます。
AS/400に備わる主な基幹システム向け機能
AS/400(IBM i)は今でも多くの企業の基幹業務を支えています。なぜ基幹システムに利用されるのでしょうか、AS/400(IBM i)は非常にユニークなシステムで、当初から企業の業務向けに開発・設計されています。そんなAS/400(IBM i)ならではの特徴的な機能を紹介します。
リレーショナルデータベースを標準で搭載
AS/400(IBM i)の特徴の一つとして、リレーショナルデータベースを標準で搭載していることです。他のコンピューターではOSとは別にデータベース製品を調達してインストールし、管理もデータベース製品の単位で行いますが、AS/400(IBM i)はOSを導入、セットアップした時点で、リレーショナルデータベースが利用できます。もっと正しく表現するならば、OSそのものにリレーショナルデータベースが統合されており、OS自体もデータベースの仕組みを利用して稼働しています。非常にユニークな仕組みなので、AS/400(IBM i)に触れたことがないと理解するのは非常に困難だとは思います。
ではなぜデータベースが統合されているのでしょうか。AS/400は当初からビジネス用途専用に企画、設計されたシステムです。そのため、基幹業務に必要不可欠なデータベース自体をOSに統合するという非常にユニークな製品です。企業がシステムを利用する上で、導入や設定に時間がかかることは手間でしかありません。その手間を省いてビジネスに注力してもらおうというのがAS/400、そしてIBM i が受け継ぐ設計思想です。だからこそ、OSを導入すれば、リレーショナルデータベースとしてすぐに利用開始できるようになっているのです。
IBM i に統合されているデータベースはDb2 for i です。IBMのリレーショナルデータベース製品であるDb2ファミリーの一つなので、他のDb2ファミリーと同様にSQLアクセスやデータベースとしての機能は他のDb2製品と同等です。それ以上に、メンテナンスが自動で行われたり、パフォーマンスを最適化してくれる機能などをOSレベルで統合管理されているメリットがあるのが特徴です。
基幹システム向けのプログラミング言語に対応
データベースが統合されている特徴に加え、AS/400(IBM i)には、データベースアクセスやデータ操作をするための専用のプログラミング言語が用意されているのも特筆すべき点です。Report Program Generetor、略してRPG(アールピージー)と呼びます。
RPG自体は1960年代にIBMが開発したプログラミング言語で、レポート・プログラム・ジェネレーターという名称の通り、報告書の生成に特化したプログラム言語でした。RPGもビジネスアプリケーション用に開発されたもので、まさにAS/400と相性の良い言語だったといえます。1988年のAS/400登場時にRPG IIIが搭載されました。OSに統合されたリレーショナルデータベースと、RPGというビジネス向けのプログラミング言語の組み合わせで、企業の基幹業務を効率的に開発することができるのがAS/400(IBM i)です。
OSと一貫してIBMが開発しているので、RPGを利用することで、開発生産性が高いだけでなく、アプリケーション実行時のパフォーマンスも優れています。RPGはその後、IBM i 専用言語としてRPGIV(ILE RPG)へと進化し、RPG以外のCOBOLやJava、Cなどにも対応しており、複数の言語を組み合わせたアプリケーション開発もできます。さらにモジュール化したりサービスプログラム化することで再利用性も高められ、さらなる開発生産性を高めるための機能拡張が続いています。Visual Studio CodeでもRPGプログラムの開発も可能ですし、ソースコード管理もGitでできます。
また、RPGだけでなく、Java、PHP、PythonやNode.jsなどオープン系言語によるアプリケーション開発もIBM i はサポートしているので、企業の基幹システムとして多様なニーズに1台のIBM i で対応できます。
高信頼性
企業の基幹システムに絶対に欠かせないのは、信頼性と安定性ではないでしょうか。いくら高機能なアプリケーションがあったとしても、稼働させるインフラが高いレベルで非機能要件を満たせなければ、基幹システムとして採用することは困難です。
IBM i は文字通りIBMが企業向けに開発したシステムです。IBM製のコンピュータシステム全般の特性ともいえますが、信頼性が高く安定的に動作します。IBM i の場合は、ハードウェア(サーバー)からOS、そしてデータベース、アプリケーション環境までIBM製です。
ITの世界ではよく相性問題というのが発生します。相性問題の多くの要因は、多数のベンダー製品を組み合わせてシステムを構成することに起因します。IBM i の場合は、システムとしての信頼性と安定性が高く、さらにはパフォーマンスも良い上に相性問題も起きづらいのです。万が一、問題が発生した時もIBMというひとつの窓口に問い合わせが可能で、ベンダー同士のたらい回しに会う必要がなくなります。
一貫して高い信頼性を有しているIBM i こそ、止めてはならない企業の基幹システムに向いています。
対話型インターフェース
AS/400(IBM i)は、5250エミュレーターと呼ばれるCUI(キャラクター・ユーザー・インターフェース)を採用しています。今の時代では古く感じられる印象があるのは確かですが、実際に使ってみるとビジネス用途専用にイチから設計されたシステムだけに、無駄のないシンプルな操作が可能です。
また、レスポンスが非常に良くて、慣れるとかなり高速に操作をすることができます。コマンドを直接入力することもできますし、ウィザード形式と呼ばれる、メニューを辿る操作方法も提供されており、利用者の習熟度によって操作方法を選べるのもユーザーフレンドリーといえます。
さらには、多くのOSでヘルプ機能がF1キーに割り当てられていると思います。しかし、あまり利用されていないのではないでしょうか。OS標準のヘルプは不親切でわかりづらいことが多いです。しかし、IBM i のヘルプ機能は非常に優秀です。ただ単にマニュアル的な内容を表示するのでなく、ユーザーがF1キーを押した際のカーソル位置に関連する情報を的確に教えてくれるのはもちろん、エラーについてヘルプを表示すれば、エラーコードから想定される原因と、解決策まで提示してくれます。そして、日本語環境であれば日本語のヘルプが用意されています。
AS/400登場時の1988年は何でもインターネットで自由に検索することなど叶わない時代でした。ビジネスのためのコンピュータとしてユーザー視点に立った上で、操作インターフェースの中でユーザーが自己解決できるようにヘルプも充実させて、まさにユーザーが画面との対話を通じて業務を遂行できるインターフェースを有したのがAS/400であり、今もIBM i に受け継がれているのです。
もちろん、CUIの画面だけでなく、Webアプリケーションをフロント・インターフェースにすることも可能ですし、そういった開発を支援するツールも充実しています。
IBM i(AS/400)は今でも現役で活用できる
このように基幹システム向けに設計されたのがAS/400です。その後継であるIBM i は現在でも現役で基幹システムに活用できます。
特に対話型インターフェースからの印象などからレガシーシステムとみなされがちですが、企業の業務を支えるシステムとして大事なのはグラフィカルな画面でしょうか。事業活動においてITシステムは必要不可欠な今だからこそ、IBM i の圧倒的な信頼性や安定性が価値をもたらします。
しかも、AS/400発表から35年以上たった今も、IBMはIBM i そしてIBM Powerに戦略的な開発投資を続けていて、開発ツールや利用可能な言語もオープン系システムと遜色ないのが事実です。x86系プラットフォームは汎用性の高さゆえにITシステムのシェアは高いですが、基幹システムとして採用すると、その汎用性の高さゆえに構築プロジェクトが思うように進まないケースもよく耳にします。
一方で、そもそもが企業の事業活動にフォーカスして設計されているIBM i であれば、基幹システム構築プロジェクトも想定外のトラブルに見舞われることもなく、計画通りに進めることができます。さらには本番稼働後の運用負荷も最小化できます。運用負荷が小さければシステム運用に関わるメンバーは、基幹システムの機能拡張にワークロードを割くことができます。つまり今の時代だからこそ、基幹システムをIBM i で構築するという選択が実は正解なのです。
まとめ
AS/400(IBM i)は、1988年にIBMが発表したミッドレンジのコンピュータシステムです。現在はIBM Powerサーバーで動作するOSの一つとして提供されています。企業の基幹業務に多く利用される理由は、リレーショナルデータベースがOSに統合されており、導入が容易な点や、専用プログラミング言語RPGを含む多様な言語に対応していること、さらに高信頼性と安定性が高く、レガシーと思われがちな対話型インターフェースも実は企業の業務で利用するには生産性を高めるのに役立ちます。IBMは今でもIBM iの開発を続け、多くの企業が長年使用し続ける理由のある、基幹システムにふさわしいコンピュータです。