マイグレーションで自社の課題を解決できるか疑問に思っていませんか?ITのマイグレーションは新しい環境へシステムを移行するプロセスですが、成功には計画と慎重な実行が求められ、失敗すれば多大な時間やコストがかかります。本記事では、マイグレーションを行う目的や手法、実施時の課題と成功ポイントについて詳しく解説します。
マイグレーションとは
IT分野における「マイグレーション」とは、現行のシステムやハードウェア、ソフトウェア、データなどを新しい環境やバージョンに移行することを指します。マイグレーション(Migration)には「移住」、「移転」、「移動」という意味もあり、システムやアプリケーションの性能向上、セキュリティの強化、新しい技術の導入を実現するプロセスとして重要です。この取り組みは、業務効率を向上させるだけでなく、運用コストの削減やリスク管理の最適化にも寄与します。さらに、急速に変化するビジネス環境での競争力を維持・強化するため、企業にとって欠かせない戦略的手段とされています。
マイグレーションをおこなう目的
マイグレーションを行う目的は、主に4つあり、システムの老朽化対応、セキュリティリスク低減、運用コスト削減、業務効率の向上が挙げられます。ビジネス環境の変化に対応し、企業の競争力や成長基盤を強化するために行われます。
故障するリスクの回避とセキュリティ強化
現行システムの保守期限が近づくとサポートが終了し、故障や不具合の対応が受けられなくなります。また、ソフトウェアの更新がされないとセキュリティリスクも高まります。サポート終了後は、設計ミスや不具合が見つかっても修正されないため、情報漏洩などのリスクが増大します。こうしたリスクを避けるために、最新のシステムに移行することが求められます。
古いシステムを知るエンジニアが不足している
古いシステムには独自のカスタマイズが施されていることが多く、維持管理が難しくなりがちです。また、旧式のプログラミング言語が使われている場合、エンジニアが限られ、属人化のリスクも高まります。担当者が退職すると、メンテナンスが難しくなる可能性があるため、最新プラットフォームへ移行して属人化を防ぐことが重要です。
老朽化したシステムを新しくしコスト削減につなげる
「2025年の崖」として懸念されるのが、老朽化したレガシーシステムによる高コスト問題です。経済産業省の発表によれば、レガシーシステムの維持により2025年には年間12兆円の経済損失の恐れがあるとされています。新しいシステムに移行することで、運用や保守にかかるコストを削減し、業務の効率化が期待できます。
ビジネス環境の変化に対応する
ビジネス環境は絶えず変化しており、顧客のニーズや市場動向も多様化しています。競争の激しい現代において、変化に迅速に対応できる柔軟なシステムを構築することが求められています。最新の技術基盤への移行は、顧客の要望に応えるスピードを高め、業務の効率化を実現するだけでなく、新たなビジネスチャンスの創出にもつながります。
マイグレーションの4つの種類
マイグレーションは、その対象や移行内容に応じて以下の4種類に分類されます。データやシステム、アプリケーションを新しい環境へ移行するプロセスは多様な目的や状況に応じたアプローチが求められ、それぞれの手法には独自の特徴やメリットがあります。適切な選択をすることで、業務効率の向上やコスト削減、競争力の強化につなげることが可能です。それぞれの特徴を理解し、目的に合った手法を選択することが重要です。
データマイグレーション
データマイグレーションとは、異なるシステムやプラットフォーム間でデータを移行する重要なプロセスです。古いシステムから新しい環境へデータを転送することで、業務効率の向上や操作性の改善を実現します。このプロセスは、システム更新時やクラウド環境への移行時に特に重要です。また、移行後のデータの整合性やセキュリティの確保が求められるため、計画的な準備と実施が欠かせません。さらに、クラウドサービスでは、定期的なメンテナンスやアップデートが自動で行われるため、従来のような手動でのデータ移行が不要なケースも増えています。これにより、企業は運用負担を軽減しつつ、最新技術の恩恵を受けることが可能になります。
レガシーマイグレーション
レガシーマイグレーションとは、老朽化したシステムを新しい環境へ移行するプロセスを指します。この移行は単なるデータ移行にとどまらず、既存システムの機能全体を新環境へ移すことが大きな特徴です。具体的には、古いプログラムやインフラを現代の技術に適合させることで、業務効率化やセキュリティ強化を図ります。しかし、企業全体の業務に直結する大規模な移行であるため、多額のコストが発生し、計画的な準備や長期的な移行期間が求められます。また、移行後の運用をスムーズに行うため、従業員へのトレーニングや新環境への適応も重要な課題となります。適切なプロセス管理を行うことで、ビジネスの競争力を高める戦略的な取り組みとなります。
ライブマイグレーション
ライブマイグレーションは、仮想マシン(VM)を稼働中のまま別のサーバー環境に移行する技術です。このプロセスでは、システム停止を伴わないため、運用中の業務やサービスに与える影響を最小限に抑えることができます。仮想化ソフトウェアを活用して、仮想サーバー間で瞬時に機能やデータを移動させるため、ユーザーは移行が行われていることに気付かないほどのスムーズさが特徴です。主に、サーバーメンテナンスやリソース最適化を目的として行われ、ダウンタイムを許容しない重要なシステムにおいて有効です。また、クラウド環境との連携が進む中で、ライブマイグレーションは柔軟性の高いインフラ運用を実現する重要な手法として注目されています。
サーバーマイグレーション
サーバーマイグレーションとは、既存のサーバーで稼働しているシステムやアプリケーションを、別のサーバー環境へ移行するプロセスを指します。一般的なケースとして、オンプレミス(社内設置型)のサーバーからクラウド環境への移行や、クラウドサービス間の移行が挙げられます。これにより、インフラ管理の負担を軽減し、柔軟性やスケーラビリティを向上させることが可能です。特にクラウド環境の普及が進む中で、災害対策、コスト最適化、セキュリティの強化を目的としたサーバーマイグレーションの需要が高まっています。また、移行の際には、データの整合性やダウンタイムの最小化を確保するため、綿密な計画と適切なツールの活用が求められます。
マイグレーションと間違いやすい用語
マイグレーションと似た概念を持つ用語がいくつか存在しますが、それぞれ異なる目的や特徴があります。
IT分野では、マイグレーションに関連したさまざまな用語が使用され、それぞれが特定の状況や目的に対応しています。これらの違いを理解することで、適切な手法を選択し、効率的な移行や最適化を実現することができます。以下に代表的な用語とその特徴を解説します。
用語 | 意味 |
---|---|
コンバージョン | システムやデータを異なる設計思想や形式に変換するプロセスを指します。マイグレーションが環境の移行を目的とするのに対し、コンバージョンはデータ形式や設計の基盤を根本的に変更し、異なるシステムや規格に対応させることを意味します。このような変換作業は、システム間の相互運用性を向上させるだけでなく、業務の効率化や柔軟性の向上にもつながります。 |
リプレイス | 既存のシステム、ハードウェア、またはソフトウェアを新しいものに置き換えるプロセスを指します。これは、老朽化した機器の更新や性能不足、セキュリティリスクの解消など、現在の環境が抱える課題を解決するために行われます。リプレイスは単なる交換にとどまらず、最新技術や新しい機能を導入することで業務の効率化や柔軟性の向上を目指すことが特徴です。 |
モダナイゼーション | 「近代化」や「現代化」を意味し、ITシステムの刷新を目的とした取り組みを指します。一般的なマイグレーションが現行システムの構造をそのまま維持しながら新しい環境へ移行するのに対し、モダナイゼーションは現行システムで蓄積してきたIT資産やデータ、業務プロセスを活用しつつ、システムを再設計し、最新技術を組み込んで最適化を図ります。 |
エンハンス | 現行システムに対して新たな機能を追加したり、既存の機能を向上させたりすることで、システム全体の性能や利便性を高める取り組みを指します。このプロセスは、システムを別の環境に移行するマイグレーションとは異なり、現行システムをそのまま維持しながら、部分的に改良を加えることが特徴です。 |
マイグレーションの手法と特徴
マイグレーションには、プロセスに応じた以下の手法があります。
各手法には特徴や適用範囲が異なるため、自社の課題や目的を明確にし、それに応じた最適な方法を選択することが重要です。適切な手法を選ぶことで、移行の効率性を高め、システムの安定性や業務運用の継続性を確保することができます。
システムを完全に刷新・再構築するリビルド
リビルドは、既存のシステムを全面的に新しい設計で「再構築する手法」を指します。この方法では、現行システムの基盤や構造を一から見直し、最新技術や現代の業務要件に対応した形で再構築を行います。その結果、老朽化したシステムが抱えるパフォーマンス低下やセキュリティリスク、運用上の課題を根本的に解決することが可能です。
言語やプログラムはほとんど変えないリホスト
リホストは、「再集結」という意味です。既存のプログラムや使用している言語を変更することなく、現在稼働しているシステムやアプリケーションを新しいハードウェアやプラットフォームに移行する方法です。この手法は「Lift and Shift」とも呼ばれ、システムの基本構造を維持したまま移行を行うため、移行リスクやコストを最小限に抑えられるのが特徴です。
言語を書き換えるリライト
リライトは、「書き換え」「書き直し」という意味です。既存システムのロジックや業務プロセスを維持したまま、プログラム言語を新しいものに書き換える手法で、この方法により、最新の技術や標準に適応させると同時に、セキュリティの強化やパフォーマンスの向上を図ることができます。
複雑なソースコードを整理するリファクタリング
リファクタリングは、「再設計」を意味します。既存のソースコードを整理・最適化し、複雑化した構造を解消することで、コードの保守性や読みやすさを向上させる手法です。このプロセスでは、コードの動作や外部仕様に変更を加えることなく、内部の構造を改善することに重点を置きます。
アクセス手段を増やすためのラッピング
ラッピングは、「包装」という意味です。既存システムの基盤や構造に大きな変更を加えず、そのまま活用しつつ新しいアクセス手段やインターフェースを追加する手法で、既存システムに外部から利用可能なAPIや新しいUIを付加することで、モバイルアプリやクラウドサービスなどの最新の技術やプラットフォームに対応することが可能になります。
次の記事へ続く
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