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【序章 (1/3)】IBM i のユーザー企業の現状と未来|『IBM i 2030 AI・API・クラウドが創る』

2024.10.23

2024年7月、IBM i ユーザーと関係者の皆さまへ向けた書籍『IBM i 2030 AI・API・クラウドが創る』を出版いたしました。本書の内容をより多くの方にお伝えするため、当ブログでは各章の要点を連載形式でサマリーとしてご紹介いたします。本記事では全体像を簡単にご理解いただき、さらに詳しく知りたい方はぜひ書籍の詳細をご覧ください。

序章 IBM i のユーザー企業の現状と未来

IBM i が常に“正解”とは限らない

みなさんは、「IBM i 」をご存じでしょうか?IBM iは、IBMが提供している企業向けOSで、多くの企業の基幹システムとして利用されています。「AS/400」という名称の方が馴染み深いというユーザーも多いかもしれませんが、本書では現在の名称である「IBM i 」を使用します。
IBM i は、世界中で15万社を超える企業が利用しており、そのうち2万社以上が日本企業とされています。しかし、Windowsのように一般社員が直接管理することが少ないため、知る人ぞ知るOSであり、残念ながらその価値は広く認知されているとは言えません。
たとえ認知されていたとしても、OS標準の黒い画面での使用が多いこと、システムがブラックボックス化されていること、そしてクラウドサービスとの連携が難しいという誤解から、「昭和のシステム」というイメージを持たれがちです。しかし一方では、IBM i を活用する企業からは「IBM iは最高のテクノロジーだ!」との声も聞かれます。

私たちは10年以上IBM i に関わってきましたが、全ての企業にとってIBM i が最適な選択肢だとは考えていません。IBM i を使いこなすためには、それなりの体制が必要だからです。
では、「IBM i が向いていない」、もしくは「わざわざIBM i を利用しなくてよい」とは、どのような企業を指すのでしょうか?
それは、システムで差別化しなくてもよい、つまりカスタムメイドのシステムを必要としない企業です。一口に基幹システムと言っても、必要な機能は企業や業界によって異なります。商社であれば販売管理や在庫管理が重要ですし、製造業であれば販売管理のみならず、生産管理も重視されます。とはいえ、全てのシステムをカスタムメイドする必要はありません。具体的には、業界特有の取引慣習がなければ、一般的なSaaSでも適合する場合もあり、カスタムメイドは不要です。その反面、独自の工程で製造している場合は特別な販売管理の機能が必要となり、カスタムメイドしたシステムが適していると言えるでしょう。
結局のところ、IBM i を利用する価値があるかどうかは、自社の競争優位性をどれだけ高めたいかによって決まります。

経営と現場が同じ方向を向くことで生まれるシナジー

情報システム担当者から、「IBM i の良さを経営層に伝えるのが大変で……」という声をよく耳にします。企業によっては、経営者と情報システム担当者が同じ方向を向いていないこともあるからです。ただ1つ確かなことは、経営層が「IBM i はカスタムメイドの仕組みを維持するためのプラットフォームとして価値がある」という考えを持っているかどうかが、情報システム部門の前向きさや働きやすさに大きく影響しているということです。

実際、IBM i にはその価値を理解し、支持してくれる多くのファンがいます。その理由は、技術視点とビジネス視点の2つが挙げられます。技術視点では、極めて独創的なテクノロジーにより、35年たっても全く色あせない設計思想があります。一方でビジネス視点では、自社独自のカスタムメイドのシステムを動かすプラットフォームとしてIBM i は非常に優秀であり、競合他社と比較した際に、その企業の個性や強みを引き出すことが可能です。ここで重要なのは、経営者がIBM i の利用を決定し、そのために必要な投資を行う覚悟を持つかどうかです。これは、「自社のどの部分を他社と差別化していくか?」という企業にとって一番根本的な部分に向き合うことと言えるのではないでしょうか。差別化を図るためには、努力が必要です。しかし、テクノロジーの進化により、その努力は以前と比べて大幅に軽減されています。IBM i はその典型です。AI・API・クラウドなど、テクノロジーの進化による恩恵をうまく取り込みながら、自社に合ったデジタル戦略を検討し、経営層と情報システム担当者が「一体となって」未来に進んでいくことを、私たちはお手伝いしたいと考えています。これまでに多くの企業を支援してきましたが、経営と情報システム担当者が同じ方向を向いている企業は、たとえ困難なことがあっても、日々さまざまなチャレンジをして前向きに取り組んでいくことが多いと実感しています。

極論、IBM i を利用するかは二の次。大切なのは、そこで働く方々がポジティブな環境で働けているかどうかです。だからこそ、経営と情報システムの担当者が同じ方向に向かって進むお手伝いができないかと考えたのが、この本を書こうと思ったきっかけでもありました。

そもそもIBM i とは? どんな企業が利用している?

IBM i は、IBMが企業向けに開発したOSであり、「AS/400」という名称で1988年に販売が開始されました。日本でも「社長の決断」というテレビCMが放映され、その先進性が広く注目を集めました。35年以上の歴史を持つこのテクノロジーは、AS/400、iSeries、System iという名称を経て、2008年からIBM i と呼ばれています。先にも述べたとおり、IBM i は日本で2万社以上に利用されており、これらの企業は製造業や流通業、金融業など多岐にわたり、企業規模も上場企業から中堅企業までさまざまです。主な利用領域としては、企業の中核をなす販売管理や生産管理が挙げられます。
さらに、IBM i の利用は日本だけにとどまりません。IBMの本社が置かれているアメリカをはじめ、イギリスやイタリアなど、世界各国で広く利用されています。近年では新興国でも金融業を中心にIBM i を採用する企業が増えてきました。
では、IBM i とは具体的にどのようなものなのでしょうか。IBM i は他のOSと比べて圧倒的に機能が豊富であり、ビジネス向けのOSとして必要な機能をオールインワンで提供しているのが特長です。これは、IBM i が企業向けに特化した設計思想を一貫して持っているためです。詳細は後述しますが、Apple社のiOSもまた、創業者である故スティーブ・ジョブス氏の強い意志のもとで開発され、一貫した設計思想を持っています。この点でIBM i とiOSには共通点があります。

次のブログへ続く